35年間お蔵入りだった!LC2 グラン・コンフォートについて知るべき3つのこと




インテリア
ときどき西宮北口に行くのですが、そのある路地にある歯医者さんの待合室に、LC2が並んでいます。ずいぶんリッチな歯医者さんだなぁと思っています。
椅子好きとしては、別にかかりつけの歯医者さんがあっても、LC2を堪能したいばかりにそっちに通院してしまおうかと思ってしまった…
 
いずれにせよ、実物を見ると、やはりホントに素晴らしいので、この機会にLC2について調べてまとめてみました。

20世紀モダンデザインの最高峰

20世紀の3大建築家の1人であり、最高のモダニストでもあるル・コルビュジエ
例えば、パリの郊外に立つ「サヴォア邸」(1931年)は、レンガ造りの建物が主流の時代に、突如として現れた鉄筋コンクリート造りの白亜の住宅でした。
LCコレクションのオリジナルは、サヴォア邸の完成前の1929年、パリのサロン・ドートンヌで発表されました。
20年代には、多くのデザイナーが新しい素材である金属に挑戦していた時代でしたが、LCコレクションもそういった流れの中でデザインされたものでした。
そしてそのシリーズの1つがLC2です。
 
その最大の特徴は、スチールパイプのフレームに、背、座、アームのクッションを落とし込むという独自の構造にあります。
クッションを取り巻くパイプは、巧みな曲げと溶接、磨きにより、美しい曲線を描いています。
製造・販売を担当した、イタリアのカッシーナ社の高い技術力がうかがえます。
LC2は「グラン・コンフォート」という別名をもちますが、「大いなる快適」と訳される坐り心地を具現化しているのです。
と同時にル・コルビュジエの哲学が凝縮されていると言えます。
映画、雑誌広告など現在でも当たり前な目にします。和室にも合うし、SF映画の未来のシチュエーションの中でも違和感がありません。つまり普遍的なデザイン、究極のモダンデザインだなのです。

シャルロット・ペリアンという才能

LC2は、ル・コルビュジエ、いとこのピエール・ジャンヌレ、そしてシャルロット・ペリアンとの協働であり、3人の名前がクレジットされています。
余談ですが、ジャンヌレ、今とても流行ってますね。ここに2、3年でしょうか。お金があったら1脚ぐらい欲しいです。でも、あの椅子って置く場所を選ぶよなぁって思います。うちのマンションがジャンヌレを置く空間として相応しいかは別として…
話を本題にもどします。
3人の中でも、とりわけペリアンは、ル・コルビュジエの考えを具体化する際に大きく貢献したと言われます。
というか、ペリアンが実質的にデザインした作品です。
シャルロット・ペリアン(1903-99)は、スチールパイプを作って使った新しい家具をデザインするため、1927年にル・コルビュジエの下に加わった期待のフランス人女性でした。
彼女が加わる前のル・コルビュジエの事務所は、建築は最先端なのに、家具が凡庸と言う評判で、建築に合った斬新な家具をデザインできる人物を必要としていたのです。
この時代はバウハウスが成功させたスチールパイプを作った使った家具作りに多くのデザイナーたちが挑戦していました。
ペリアンは、後のLC2となる新しい家具のイメージは「クッションバスケット」でした。スチールパイプのカゴの中に、四角いクッションを複数はめ込んでソファーにするというものです。
ですが、家具職人でスチールパイプを扱えるような人物はまだおらず、彼女は金属部分の政策を錠前職人に依頼しています。
こうして完成したプロトタイプは革新的で、ルコルビジェの期待を十分に満たしていたのです。

35年間お蔵入りだった理由

実はこのソファーは発表当時ほとんど売れませんでした。
ル・コルビュジエの親しい顧客、つまりインテリで金持ちは購入してくれましたが、大量生産を前提に製造販売してくれる会社は現れませんでした。
まだ一般人はスチールパイプの家具になじみがなく、採算が見込めなかったのです。
結局わずかな数が制作されただけでほとんど売れずにお蔵入りになっています。
この家具が再び世に出たのは、発表から35年以上経った1965年のことです。
1962年にマルセル・ブロイヤーのS32の通称「チェスカ」(「チェスカチェア」)を、その時代にふさわしい姿で蘇らせたイタリア人経営者、ディノ・ガヴィーナが尽力しました。
製造を引き受けたのは、すでに述べたように、イタリアのモダンデザインを牽引してきたカッシーナ社。
LC2はスチールパイプを何カ所も曲げたように見えるところがデザインの肝と言えますが、それを実現できる高度な生産技術を有していました。
こうしてル・コルビュジエとペリアンの監修のもと、同社から復刻されました。
当初はラッカーで塗装された金属部分は、ピカピカのクロームメッキで仕上げられました。スチールパイプを美しく曲げたように見えるのはこの時代の最新技術のおかげです。
 
こうして忘れ去られていた名作が我々の手に入るようになったのです。
以上、LC2 グラン・コンフォートについて知っておいてほしい3つのことでした。
参考:『ストーリーのある50の名作椅子案内』スペースシャワーネットワーク、『この椅子が1番!』誠文堂新光社、『名作家具のヒミツ』エクスナレッジ
 
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