なぜYにしたのか?〈Yチェア〉絶大な人気がある3つの理由




インテリア

基本情報

CH24 通称「Yチェア」
デザイナー ハンス・ J・ウェグナー
ブランド カール・ハンセン&サン
発表 1950年

人気の理由

日本で最も人気が高い北欧の椅子です。日本だけでも年に数千脚も売れるほどです。

なぜこんなに人気なのでしょうか?

まず、古来の椅子の系譜を引き継ぎながらも、新しい解釈で良いデザインしかつ普遍的なデザインであること。

次に、製造コストを抑え購入層を広げた事。機械生産が主なので廉価に製造でき多くの人に行き渡る出せることができました。

Yチェアは北欧のクラフトマンシップを活かしながら機械生産にも対応した、いわば量産できる工芸品として生産効率も重要視された工業製品です。

そして最後に…次のようなドラマがありました。

知られざる復活劇

現在では、日本で特に人気が高く、世界では既に50万脚以上が販売されています。

しかし、20年余り前は、この椅子がほとんど日本でしか売れていなかったのです。それどころか、当時、カール・ハンセン& サン社はこの椅子1種類しか商品がなかったのです。

Yチェアが生まれたのは1949年、そして1950年代にアメリカで人気となり、その時期の北欧家具ブームに乗って大いに売れました。カールハンセン社も飛躍的に拡大しました。

ところが、70年代以降流れが大きく変わります。プラスチック製の家具の出現やイタリア家具の人気で、木製の北欧家具の人気は停滞し、多くの工房が閉鎖に追い込まれてしまいました。

一方日本では発売から1990年頃までYチェアの人気はカルト的なものだったといいます。

今のように絶対的な人気を勝ち得たのは、しっかりした日本での販売体制が構築されたことに加え、建築家の安藤忠雄氏が自身の建築に使用したことが大きいようです。

北欧家具の魅力、その源泉

そもそもYチェアが引っぱる北欧家具にはどんな魅力があるのでしょうか?

20世紀の家具のデザインにおいて最も活気があり、華やいでいた1940〜60年代、重要な役割を演じたのが北欧のデザイナーでした。

ヨーロッパの北の辺境から生まれる家具がなぜ支持されたのか?

それはインターナショナルでモダンな印象でありながら、地域性、固有性を有していたからだと考えられますす。

豊かな森を背景に、主に木を用い、ぬくもりや心地よさといった人に寄り添うような魅力があったのです。

そして、その象徴と言えるのが、デンマーク人デザイナー、ハンス・J・ウェグナーです。

ウェグナーってどんな人?

1914年、ユトランド半島のドイツとの国境に近い街、デンマーク・トゥナーに生まれました。

ウェグナーは靴のマイスターであった父の影響もあり、子供の頃から近所の家具工房に出入りしては木を削って遊んでいました。

17歳で家具のマイスターの資格を得たのは自然な流れと言えるでしょう。

そして23歳、コペンハーゲン美術工芸学校家具科に入学し、デザインを学びました。技術とデザインの両方を身に付けた事は生涯にわたり財産となりました。

しかしウェグナーはしばらくの間、自身のデザインの方向性を見出せない時期が続いていました。

そんな中、ある書物で目にした、中国・明代の圈椅(クワン・イ)という曲線の美しい椅子が運命を変えることになりました。

当時のデンマークでは「デンマーク近代家具デザインの父」と呼ばれたコーア・クリントが提唱した「過去の名作にルーツを求め、現代の暮らしに合わせる=リデザイン」の手法が重視されていました。

ウェグナーもこのプロセスにのっとり、リデザインを繰り返し、1950年にYチェアを発表しました。

木を熟知し、椅子の製法にも通じていたウェグナーは、機械化が進んでいた同社の工場の特性を理解し、職人と対話を繰り返しつつデザインを進めました。

機械によって木材をカットし、ヤスリがけや組み立て、座面のペーパーコードを貼る作業を人間の手によって作り上げています。

すでに述べたように、50年以上にわたって売れ続けているベストセラーの1脚となったのは、機械による作業を導入したことで抑えられた価格と、個性的であるが自己主張すぎない術楽なデザインを持つためでしょう。

ウェグナーは、2007年に死去するまでに500脚以上の椅子のデザインの手がけました。

「Y」にした理由

目指したのは、上質でありながらも安価で機能的、庶民のための椅子でした。

正式名称はCH 24ですが、実はYチェアの愛称の由来となった背中のワイのパーツも、製法の簡略化とコストダウンの結果です。

本来ならば、背中は笠木のカーブに沿うように三次元成形しなければなりませんが、背中がY字の3点でかたちであれば、二次元成形ですみます。

こうして結果的に「Yチェア」の名で時代を超えて人々に愛されることになったのです。

ペーパーコードの寿命

長年の使用により、そのペーパーコードの張りが緩んで座面が沈み気味になると坐り心地に影響してきます。座面の張り替えは10数年が目安とされます。

「ウィッシュボーンチェア」?

日本やデンマークでは「Yチェア」と呼んでいますが、アメリカでは「ウィッシュボーンチェア」と呼ばれています。「wish bone」とは、鳥の叉骨です。確かにY字ですが、V字の骨とも言えますね。

日本では模倣品対策のため立体商標登録されています。

参考:『ストーリーのある50の名作椅子案内』スペースシャワーネットワーク、『名作家具のヒミツ』エクスナレッジ、『美しい椅子』枻文庫、『この椅子が1番! 』誠文堂新光社

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