漫画の桓騎を復習
来歴
もともとは野盗の頭目で、部下からは「お頭」と呼ばれてる、冷酷な将として描かれる桓騎。
「首斬り桓騎」との異名を持ち、投降兵を容赦なく殺害するといった面を持つなど性格には難があるが、戦いに関しては非凡であり、秦の将軍のなかでも目立った武功を挙げています。
生まれが一世代早かったら、間違いなく秦の六大将軍に名を連ねていたといわれるほどです。
蒙驁軍の若き副将として初登場。かつては野党の頭目として、秦の南方で非道の限りを尽くしていました。
さかし、蒙驚の副将時代からすでに王騎に化物と評され、一目置かれた実力の持ち主でした。そして実際に王翦と並んで、六将級の評価を受けるほどの武勲をあげています。
合従軍の襲撃に際して咸陽に招集され、函谷関の守護という大役を担い、韓の成恢を討ち取りました。
その後は、魏の汲に侵攻。さらに趙方面へと進み、黒羊丘を落とすため飛信隊と合流します。相容れないふたりが手を組むことになります。
桓騎はが彼らのことは駒のひとつとしか考えていないようですが…。
性格
野盗時代から変わらず、性格は冷酷無比。
投降兵にすら無慈悲です。敵兵の眼をえぐって敵陣に送りつけるなど、あまりの残虐性に、敵は戦意喪失し、味方ですら眉をひそめることも。
また国王である政を値踏みするほどの傲慢な面もあります。
戦のスタイル
自ら変装して敵本陣に侵入し、敵将を討ち取るといった奇策を用いる一方で、対合従軍では敵の井蘭車を利用して城内から地上へと降り立ち、そのまま敵軍に突撃を仕掛けるなど、秦軍きっての戦上手です。
その野盗あがりならではの戦場のルールにとらわれない奔放な発想で、圧倒的な戦上手を誇ります。
その特異性ゆえ、張唐などからは快く思われていないが、桓騎は、その才能で秦を支えていくには必要不可欠であり、周囲を納得させる戦果を挙げ続けています。
実在の桓騎
『史記』「始皇本紀」では…
『史記』の「始皇本紀」における桓騎の初登場は秦王政10年(前237年)、将軍になったという記述です。
呂不韋がロウアイの乱に連座して、相国を罷免され、河南での蟄居を命じられた直後です。
もしかしたら桓騎は、乱の鎮圧に功績があり、その論功行賞で将軍になったのかもしれません。それは同時に政が実権を握るのに貢献したことになります。
翌年には王翦を主将とする趙への遠征に副将に抜擢されて従い、鄴の攻略を担当。
これに成功すると、さらに軍を進めるべく、休む間もなくのロウ(木へんに尞)陽攻略に向かい、こちらも難なく陥落させ、灌水流域を秦の支配下に収めました。
秦王政13年(前234年)には趙の平陽攻略に派遣され、敵将の扈輒(こちょう)を討ちとり、十万もの趙兵をみな斬首するという大功を挙げました。
年をまたいで平陽攻略戦を続け、赤麗では李牧軍と戦って退けられたものの、宜安(ぎあん)を陥落させたのち、ついには平陽攻略にも成功しています。
宜安は現在の河北省 中西部、平陽は邯鄲の南西に位置する要衝であることから、桓騎に与えられた使命は、趙の都・邯鄲を孤立させることにあったのでしょう。
そしてこの年を最後に桓騎の名は『史記』から消えます。
『戦国策』では…
『戦国策』では、平陽攻略戦に成功していません。趙の李牧に討たれたと記されています。
『戦国策』によると、平陽攻略において、趙軍のあまりの手ごたえのなさに勢いづいた桓騎は、さらに軍を北へ進めると、宜安を攻めました。
これに立ちはだかったのが、趙の名将・李牧です。
李牧はあらかじめ敵軍の情報を正確につかみ、策を練って戦に臨む将軍でしたが、『戦国策』の桓騎は、策を弄さず、ひたすら力攻めをする〝猪突猛進〟の武将でした。
軍を二つにわけ、宜安に攻め入った桓騎でしたが、手薄になっていた本営を李牧軍に襲われてしまいます。
意表をつかれた桓騎軍が乱れるなか、李牧が両翼から桓騎軍に攻撃を仕掛けてきたため、桓騎軍は総崩れになり、あえなく敗走しています。
一説には、その後、桓騎は燕に亡命し、樊於期(はんおき)と名を改め、秦の追手から逃れる日々を送ったとあります。
燕の太子・丹の厚遇を受けた樊於期は、丹から政暗殺を依頼された荊軻(けいか)の策に乗り、喜んで自らの首を差し出したといいます。
検証!「桓騎」
野盗出身?
漫画『キングダム』では桓齮を野盗の出身としています。
実はこれはありえない話ではないようです。
中国の歴史上、厄介な野盗を正規軍に組み入れることはしばしば見られ、乱世においては特にその傾向が強かったからです。
首斬り設定の由来
すでに述べていますが、前234年の趙の平陽攻略の際に、10万の趙兵の首を切りました。
恐らくこの〝首斬り〟エピソードが、漫画『キングダム』のキャラ設定に影響を与えているのでしょう。
略奪は普通だった?
漫画『キングダム』では、ダークヒーローぶりが魅力的な桓騎ですが、読者とした、どうしても共感できないのが、残虐な略奪行為です。
しかし、『史記』からもうかがえるように、古代中国ではこうした行為も珍しくなかったようです。とりわけ秦軍は…。
原泰久先生の公式コメント
「蒙驁の副官として同時に登場させたんですが、その時ポジション的に空いてるようなキャラを模索して、悪いイケメンを出そうと思ったのが桓騎、謎の覆面キャラを出そうと思って出したのが王翦です。
キャラ的にも対照的で、口の悪い野盗と、寡黙で何を考えているのかわからない奴です。けっこう狙って考えました。」
原泰久先生は、信との価値観を、桓騎との対比で描き出そうとしたともおっしゃっています。
参考:、ヤングジャンプコミックス『キングダム公式ガイドブック英傑列紀』、ヤングジャンプコミックス『キングダム公式ガイドブック覇道列紀』、双葉社スーパームック『春秋戦国の英傑たち』、サンエイムック「史実で読み解く『キングダム』の英雄たち」、『キングダム将星伝記』英和出版社、サンエイムック「史実で読み解く『キングダム』の世界」、集英社新書『始皇帝 中華統一の思想「キングダム」で解く中国大陸の謎』