現代ドイツサッカーの「教授」
「教授」とは、昨シーズンまでのRBライプツィヒのスポーツ・ディレクターであるラルフ・ランゲニックのことです。
ブンデスリーガのみならず、世界的にもたいへん注目されている人物で、現代ドイツサッカーを象徴する人物です。
また、そのサッカー観は、直接的にはパリ・サンジェルマンのトーマス・トゥヘル監督、(下部リーグで監督と選手の関係)、ライプツィヒの現監督ユリアン・ナーゲルスマン、間接的にはリバプールのユルゲン・クロップ監督といったビッグクラブを指揮するドイツ人監督に影響を与えていると言われています。
ランゲニックは、下部リーグを指揮して名を上げ、シュツットガルト、シャルケとブンデスリーガの強豪も指揮を執っていますが、その真骨頂はスポーツディレクターとして小さなクラブで新しい波を起こすことにあります。
ホッフェンハイムで数々の実験的な強化策を打ち出し、2012年からはオーストリアのレッドブル・ザルツブルクとドイツのRBライプツィヒの2つのクラブのSD(スポーツディレクター)を兼任していました。
「教授」と呼ばれるラングニックの理論は、分析とデータを駆使して作り上げられた先鋭的かつ異端のスタイルです。
その特徴としては、まず、☑️ドイツでいち早くゾーンディフェンスを採用しました。
次に、☑️攻守をシームレスに(=途切れなく)とらえます。わざと☑️狭いエリアで攻撃して、後方からサポートをそのまま奪われたときのプレスの勢いに転化しています。
中央の狭いエリアに選手を集中させて縦パスの連続による突破を図ります。もしもボールを失っても、エリアが狭いためにプレッシングが効きます。
攻撃は広く守備は狭くがサッカーのセオリーですが、ラングニックのサッカーは狭いエリアでの攻守を繰り返すのです。
そして狭いエリアを☑️縦へ縦へとボールを動かしていきます。バックパスもサイドチェンジもほとんどしません。
途中で奪われることも当然多くなりますが、攻撃ですでに狭くしているので即座にプレスを仕掛けられる。☑️奪われても素早く奪い返そうとします。
ここで気がつくのは、アトレティコ・マドリードのシメオネ監督のような側面があるということですね。
☑️ハードワークが求められるめまぐるしい試合展開の中で優位性を持てるように、激しいトレーニングを積み、☑️スピードのある選手を集めています。
RBライプツィヒでは☑️原則的に23歳以上の選手は獲得しません。若くて走力のある選手を優先しているのです。
なぜ若い選手を獲得するのか?ラングニックの特殊な戦術にフィットするだけでなく、☑️無名だった選手を有名にして高く売ったほうが利益が出るからです。
例えば、ライプツィヒにおいて、ドイツ代表のFWティモ・ヴェルナー(ベルナー)、スウェーデン代表のMFエミリ・フォルスベリ(フォルシュベリ)、ギニア代表のMFナビ・ケイタ(現在リバプール所属)など。
ところで、ブンデスリーガでは、監督達も若い!40代でも若手と言われる監督たちだですが、20代でブンデスリーガデビューし、今年32歳のライプツィヒのユリアン・ナーゲルスマン監督を筆頭に、ドメニコ・テデスコ(1985年生、元シャルケ監督)、マヌエル・バウム(1979年生、元アウスブルク監督、現在ドイツU20監督)、フロリアン・コーフェルト(1982年生、ブレーメン監督)、サンドロ・シュヴァルツ(1978年生、マインツ監督)など…近年ドイツではプロ選手としての実績や経験がわずかな若い監督の台頭が目立っています。
本論に戻ります。
もちろん、これらの選手が、狭い場所で攻守を分離せずにプレーできることが要求される、ラングニックのサッカーにピタリと合っていたことは言うまでもありません。
まとめると、ランゲニックのサッカーは、攻守ともに狭いエリアで行うのが最大の特徴です。狭いエリアでの攻守を連続させ、その中でフィジカルの有利と的確なポジショニングによってアドバンテージを得る戦法です。
さて、そのランゲニック氏ですが、2019-20シーズンからは、ライプツィヒのSDを離れ、レッドブル傘下のクラブのコンサルに転職したそうです。
しかし、ライプツィヒを中心にランゲニックがブンデスリーガに残した影響は大きいといえるでしょう。
最後にこぼれ話。ライプツィヒの正式なクラブ名は「RBライプツィヒ」ですが、この「RB」は、、“Rasen Ballsport”(芝生の球技)の略だとされていますが、実質的にはオーストリアに本社がある清涼飲料水メーカーとしてご存知の、あの「Red Bull」の略だと言われています。
こういったことから、サッカーのスタイルとして、ランゲニック系=レッドブル系という言い方もされるようです。
以上、「今さら考える〈ブンデスリーガらしさ〉とは?後編 『教授』ランゲニックとは何者か?」でした。
参考:『世界のサッカー名将のイラスト戦術ガイド』エクスナレッジ、『UEFAチャンピオンズリーグ2018-2019最新戦術論』洋泉社など