【検証】趙雲は本当に曹操軍の敵中突破をしたのか?【三国志の真実?ウソ?】




三国志

民間伝承で広く愛され数多くの武勲に彩られた白馬の武将・趙雲といえば、まずは長坂坡の戦いにおける活躍に触れねばならないでしょう。

208年、荊州に進出した曹操軍から逃れるべく南下する劉備軍だったが、当陽県長坂で曹操軍に追いつかれて散り散りとなります。

そこで逃げ遅れた劉備の子・阿斗(劉禅)と側室・甘夫人を保護したのが、劉備軍の主騎である趙雲です。

『三国志演義』では、さらに華々しく、単騎で敵中を突破し、赤子である阿斗を胸に抱いて獅子奮迅の戦いぶりを披露しています。趙雲は敵の大旗二本、戟三筋を奪い、名のある大将五十余人を斬った(第四十一回)としており、ファンが血を躍らせる個所です。この活躍が評価され、趙雲は牙門将軍に昇進しています。

半分創作…半分事実!

結論から申し上げると、趙雲の大胆な敵中突破は、『三国志演義』の創作です。

建安3(208)7月、曹操は南下して荊州の平定に向かいました。荊州牧の劉表は翌月に病没し、後を継いだ劉琮は戦わずして降伏しました。

劉表の客将だった劉備は南へ逃れましたが、彼を慕う荊州の民も従ったので、移動は遅々として進みませんでした。そのため、当陽県長坂(現・湖北省荊門市)で曹操軍に追いつかれ、劉備は妻子を捨てて数十騎で逃走しました。

このとき、劉備の妻のひとり甘夫人と子の阿斗(のちの劉禅)を救出したのが、猛将・趙雲です。

もうひとりの劉備の妻・腱夫人は自ら井戸に身を投じて亡くなったが、阿斗を託された趙雲は、敵将の夏侯恩を倒して曹操の宝剣「青針の剣」を入手。阿斗を身に抱えたまま敵兵を斬り伏せ、敵中を一騎で駆け抜けました。

こうして趙雲は劉備のもとへ無事阿斗を送り届けたが、劉備は赤子を草むらへ放り投げ、「趙雲のごとき良将はまたと得られるものではない。危うく我が子のために失うところであった」と言って涙を流しました。

この敵中突破は、趙雲の武勇と忠義を語るうえで欠かせない英雄譚だが、実は『三国志演義』によって創作された話です。

ただし、正史にも長坂坡で阿斗を保護したことは記されているので、それ自体は事実と考えられます。

2度目の劉禅救出

211年、劉備が単独で益州に進出したのを怒った孫權は、劉備に嫁がせた妹・孫夫人を引き取りました。

夫人は生母と死別した劉禅を養育していたので、一緒に迎えの舟に乗せました。これを知った趙雲は張飛とともに追跡し、劉禅を取り返します。不思議な巡り合わせと言うべきか、趙雲は二度も劉禅の危機を救ったことになります。

実は影が薄い趙雲

正史では記述が少ない冷静沈着な勇将・趙雲そもそも正史における趙雲の記述は、さほど多くはない。前述した阿斗の救出のほかは、北伐で魏の曹真に敗れたこと、建興7(229)に亡くなり、順平侯の諡が贈られたことが記されている程度です。

しかし、正史の裴松之注に引用されている「趙雲別伝」では、関羽や張飛と並ぶ勇将として描かれています。

荊州や益州の攻略でも功を挙げ、「身長八尺(184センチ)で姿や顔つきが立派だった」とあります。『演義』における趙雲の人物像も、こうした別伝の記述を踏襲したとみられます。関羽、張飛、馬超、黄忠とともに五虎大将軍に列せられ、沈着冷静な武の忠臣として人気も高いです。

ただし、三国から東晋までの時期に記された「別伝」は一族の名声や評判を高めるために作られたものが多いので、信憑性も高くありません。『趙雲別伝』も趙雲の活躍が美化されていることから、趙家の家伝を改編したものだった可能性があります。

実際の趙雲はどんな人物だったのか?

劉備と劉禅に長く仕え、諸葛亮からの信頼も篤い忠義の人物でした。こらは事実でしょう。

しかし、蜀を支えた人物を記載した書物『季漢輔臣賛』では、関羽と張飛が4番目、馬超が6番目に登場したのに対し、趙雲が25番目に登場することから、将軍としての位は他の五虎大将軍より低かったのかもしれません。

ただし、劉備の子である阿斗を救出した功績は記されているので、劉備の家族の護衛隊長のような役割を担っていたと考えられます。

その他に『演義』では赤壁の戦いを前に孫権の妹の孫尚香(孫夫人)との縁談のために劉備が孫権の陣にむかった際、その護衛として同伴し、圧倒的な存在感で孫権による劉備暗殺計画を防いだとあります。

やはり趙雲は、歴史家よりも民間の人気が高かったらしく、正史『趙雲伝』での言及は少なく、『趙雲別伝』に業績が並べられているだけです。

「白竜」という名の駿馬を乗りこなしたという説話や涯角槍という槍が得物として語られていますが、これらは正史や『演義』に言及がなく、いわゆる民間伝承です。

参考:『史実 三国志』宝島社、『三国志 きらめく群像』筑摩書房、『歷史人Vol.3』晋遊舎

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