地元神戸の愛するクラブ・ヴィッセルを常勝軍団したいがために、それはつまり高いボール保持率を勝利に結びつけるために、ボールポゼッションのメリットとデメリットを正確に勉強し整理しておこうと思います。
ボール保持率ランキング
プレミアリーグ2019-2020(第9節まで)
Manchester City 65.7%
Liverpool 59.6%
Everton 56.8%
Chelsea 56.0%
Tottenham 55.8%
Arsenal 55.6%
ヨーロッパのコンペティションに出場できる6位までは上記の通りです。ちなみにマンチェスターユナイテッドは54.89%で8位でした。
ボールポゼッションと順位がほぼ重なっており、プレミアリーグではボール保持率が勝利につながっていることがわかります。
それに対してJリーグはどうでしょうか?
Jリーグ2019(10月20日現在)
横浜Fマリノス 61.7%
ヴィッセル神戸 57.7%
名古屋グランパス 56.0%
川崎フロンターレ 55.3%
大分トリニータ 54.1%
ガンバ大阪 52.7%
ヴィッセル神戸や名古屋グランパスはボールポゼッションは2位と3位ですが、順位は中位から下位、下を見れば降格圏たいう順位に沈んでいます。Jリーグでは、ボール保持率が勝ち点につながっていないことが明らかですね。
そこで今回はボール保持率が高いことの利点と欠点を考えてみたいと思います。
ボール保持の3条件=3つのメリット
安定したボールポゼッション、すなわち相手にボールを奪われることなく連続してパスをつなぎ、シュートに向かって局面を前に進めていくためには、何が必要でしょうか。
その条件を3つ挙げれば、選手間の距離、的確なタイミング、そしてパスのスピードと正確性ということになります。
選手間の距離
選手間の距離は、離れ過ぎないことが大切です。距離が離れれば離れるほど、パスの精度は低くなり、相手にインターセプト(ボールの軌道上に入ってパスをカットすること)を許す可能性も高くなります。
ボールホルダーが正確なパスを出せる距離に2人以上の味方が位置して、複数の選択肢を提供できれば、パスが成功する可能性は高くなります。パスの方向は、水平ではなく必ず縦方向、(斜め)前か(斜め)後ろであることが望ましいでしょう。
Jリーグで言うと、ボールポゼッションNo.1の横浜Fマリノスの、選手間の距離はすばらしいですね。マルコスジュニオールと仲川輝人なんて、本当に狭いスペースでパスをやり取りし、相手守備陣を切り裂いてしまいます。
パスするタイミング
パスを成功させるためには、タイミングも大切です。タイミングがズレるとパスは成功しないからです。
したがって、ボールポゼッションは1タッチ、2タッチでパスを回すことが基本になります。ボールホルダーがボールを持てば持つほど、受け手側はタイミングが図りにくくなるし、相手にもプレーを読んで対応する時間を与えることになるからです。
チーム全体がバス回しのリズムを共有し、互いの動きを連動させることが重要です。
2タッチまででパスするチームは良いチーム、3タッチ以上するチームは、選手もチーム全体としても2流以下と聴いたことがあります。それはパス回し、ひいてはボール保持率に関わる問題だったのですね。
オフ・ザ・ボールの動きも重要です。パスを連続してつなぐためには、受け手が棒立ちでパスを待つのではなく、敵のマークを外して動き、フリーになってスペースでパスを受けるべきだからです。ボールを持たない攻撃側の選手が行うこうした動きは戦術的に非常に重要な意味を持ちます。
棒立ちの足元にいくらボールをつないでも、それだけでは局面は前に進みません。逆にボールを奪われて逆襲を受ける可能性が大きくなってしまいます。パスを周囲のプレーヤーの動きと連動させ、足元ではなくスペースにボールをつなぐことによって初めて、敵の選手を動かし守備網に綻びや穴を作り出すことができるのです。
さらにいえば、ボールを失うリスク、ボールを失った時に逆襲を受けるリスクを低減させるためには、手前に戻ってくる動きではなく、前方のスペースへの動きによってパスをつないでいくのがベターです。
パススピード
パスのスピードと正確性については、言うまでもなく大切です。
スピードがあって正確なパスを連続してつないでいくためには、それなりのテクニックを持った選手がチームに揃っていることが不可欠です。
とりわけ、展開の起点となるCBと、パス回しの中心として最も多くボールに触れることになるボランチの技術レベルが高くなければ、スムーズで効果的なポゼッションを行うことはできないでしょう。
ボランチでは、バルセロナのブスケツ、マンチェスター・シティのロドリ、バイエルンのチアゴが頭にすぐ浮かびますね。神戸ならば、サンペールが高い技術レベルでパス回しの中心になっている時、攻撃がうまく繰り出せていますね。
デメリットとリスク
ここまでで明らかなように、ボールポゼッションには、試合の主導権を握りリズムをコントロールできるというメリットがあります。しかし、もちろんデメリットもあります。
最も大きなデメリットは、パスをつないでボールを保持し続けることの必然的な結果として、チームの組織的なバランスが崩れることです。
すでに見た通り、ボールポゼッションにはオフ・ザ・ボールの動きが不可欠ですが、複数の選手がこれを繰り返せば、ボールよりも前に多くのプレーヤーが進出し、チーム全体が前がかりになっていくことは避けられません(これは名古屋グランパスが風間八宏前監督時代に大きく失速してしまった要因でしょう)。
例えば、SBが敵陣まで攻め上がれば、ポジションのバランスも崩れることになります。さらに、ポゼッションが行き詰まって足が止まってしまえば、ボールを奪われた時には守備の人数が足りないという状況も容易に起こり得ます。
では、オフ・ザ・ボールの動きを控えればいいかといえば、話はそれほど単純ではありません。チーム全体が足を止めた状態でボールポゼッションを行っても、局面を前に進めることは難しいからです。そんな状態でパスを回し続けても、相手に帰陣して守備陣形を整える時間を与える以外には、何の効果も期待できません。
つまり、動きのないスローなボールポゼッションは、シュートにつながる局面を作り出すという本来の目的を逸脱するばかりか、逆にその目的にとって不利な非生産的状況を作り出してしまうのです。
そう考えると、ボールポゼッションは、効果的な形でそれを行わない限りむしろ非生産的な行為になってしまう可能性を秘めた、難しいプレーだといえるでしょう。
ポゼッションは勝敗とは無関係
実際、すでに見たように、ボールポゼッションを高めたからといって勝利の確率が高まるわけでは決してありません。1試合を通してのボール保持時間が長いチームが勝つ、という統計結果はどこにもありません。短いチームが勝つという結果もないから、ポゼッションと勝敗との間に統計上有意な関係はない、という結論にならざるを得ないのです。
通常、ボール支配率に大きな差がついている試合では、少ない方のチームは最初からポゼッションにこだわらず、自陣に引いて守備を固めカウンターを狙うという戦術を採用している場合がほとんどです。
こうした場合には、ボールを持っているのではなく持たされているという状況に陥る可能性も多々あります。引いて守備陣形を固められてしまえば、シュートにつなげるためのスペースをこじ開けることは難しくなります。こうした状況では往々にして、効果的なボールポゼッションではなく、非生産的なボールポゼッションに多くの時間を費やすことになるものです。
そして結果的に、ポゼッションのメリットや効果よりもデメリットやリスクの方が大きくなってしまうことも少なくありません。質の悪いポゼッションは失点を喫するための条件を整えることにしかつながらないのです。
参考:『アンチェロッティの戦術ノート』河出書房など