新型コロナウイルスのおかげで地球規模でサッカーがなくなりとても鬱な日々を送っております。このパンデミックの最中にただ試合を待っていてもしょうがないので、この機会を利用して世界の名将の戦術について、基本の「き」から復習しておきたいと思います。第一回目はペップ・グラウディオラです。何回続くかわかりません。
ペップとイングランド
言うまでもなく、ジョゼップ・グアルディオラは、自らの理想を追求するタイプの指揮官です。
今季もパス成功本数、ボール支配率が高いのがその証拠です。特にポゼッション率は例年通りこだわりを見せています。
イングランドのプレミアリーグは、スピードとフィジカルをストロングポイントとするプレースタイルです。
ロングボールが多く、攻撃では、やたらと速いだけで精度に乏しいダイレクトなプレーもまだまだ目につきます。
守備では、例えばセリエAと比べると。組織的なインターセプトやブロック構築ではなく、派手なタックルが男らしいと持ち上げられる傾向も強いと言えます。
そんなプレミアリーグで、ペップは、後方からのビルドアップにテコ入れしつつ、GKにスウィーパー・キーパー的な仕事をさせようとします。
ポジショナルプレー
そしてその根幹となるのは、中盤において数的優位とパスコースを確保していくための「ポジショナルプレー(ボールの位置を基準にしたポジション取り)」と呼ばれる原則によって、2017-2018、2018-2019とプレミアを連覇しました。
5レーンとハーフスペース
今季もその路線を引き継ぎつつ、「5レーン」や「ハーフスペース」という概念でシティのサッカーを展開しています。
よく知られているように、ペップは、マンチェスター・シティの選手たちに、ピッチを縦方向に5分割した上で、ウイングの選手とセンターフォワードの間に相当するスペースをカバーするよう厳命しているのです。
偽サイドバック
また「偽サイドバック」の導入も、今季も変わりません。
いわばサイドバックに対する発想の根本からの転換で、サイドバックを前方に上がらせながら中盤に絞らせ、ビルドアップの起点と攻撃参加、さらには守備のスクリーンという複数の役割を求めるのです。
5レーンや偽サイドバックという発想は完全にシティに浸透して、GKとふたりのセンターバックを除く全員が、ビルドアップやチャンスメイクに絡む場面が見られるようになりました。
選手たちは縦方向のハーフスペースだけでなく、敵の守備ラインと中盤の間に広がる横方向のスペースも突くため、対戦相手をはるかに上回るパスコースとスペースを確保できるようにもなりました。「シティは12人でプレーしているようだ」 と評される所以です。
さらに、このアプローチは守備に転じた場合、きわめて効果的なプレッシングのメカニズムにも変貌します。
イングランドの伝統との融合
ペップは、イングランドからの恩恵も受けています。イングリッシュプレミアリーグのハードワークはペップのサッカーを後押ししました。
ブリテン島では攻撃の名手といえども、額に汗して走り回らなければ、ファンからは評価されません。
この伝統がシティにも根付いていることは、デ・ブライネやダビド・シルバが、馬車馬のごとく守備に奔走する様子からもうかがえます。
ペップの戦術レベルアップに、「ハードワーク」というイングランド独特のフットボール・カルチャーが貢献しているのです。
ロングボールで一気に
ペップが指揮する試合では、敵をおびき出しながら、ロングボールで一気に得点を狙うパターンも見られます。
シティに限らず、バイエルンやバルセロナ、リヴァプールなど、ゴールキーパーがゴールのアシスト役として名を連ねるということも珍しくなくなりました。
攻守を間わず、これほど多くのバリエーションを駆使するメガクラブが増えていましたが、その先駆がシティでした。
デ・ブライネが語るシティのサッカー
デ・ブライネ「シティの選手は全員、(自陣のゴールから)8メートルまでのエリアでは、 どこでポジションをキープし、いつ動き出すかというタイミングまで完全に把握している。
でも敵のゴールに近づけば近づくほど、自由にプレーを仕掛けていいことにもなっている。
ペップは選手がロボットになるのではなく、自己表現していくことを求めているんだ」
まとめとしてシティのゲームモデル
攻守に切れ目なく貫く哲学。
良質のポゼッションを背景に、どんな相手も敵陣で一方的に攻め立てるゲームモデルは不変。
流れるようなパスワークで敵陣に踏み込み、外に開いたウイングの打開力を活用しながら、敵のゴールに迫っていきます。
失ったボールの即時奪回(カウンタープレス)も効率よく機能。それが安定したポゼッションを支え、多彩な攻めの引き金もなっています。
参考:「ワールドサッカーダイジェスト」2020.3.5、洋泉社MOOK『UEFAチャンピオンズリーグ2018-2019最新戦術論』など